住宅ローンは繰上返済するのが賢いと言われるけど・・・

住宅ローンを借りるとき、完済予定日や返済期間を決めることになります。FPとしてご相談を受けていても、「定年までに住宅ローンを終わらせたい」というお気持ちはとてもよく伺います。理想的には、安定した収入が維持しやすい定年までに住宅ローンを終わらせておきたいところです。

例えば定年が60歳であれば、ローンの返済も60歳までに終わらせることが賢い返済計画、というわけですね。

給料収入がなくなったり減ったりしたときに住宅ローンの支払いが残っていることはリスクになりますし、豊かな老後を過ごすための足かせになる可能性もあるためです。

また、住宅ローンは返済年数が短ければ短いほど、支払う利息(銀行への手数料のようなもの)が少なくて済みます。その観点でも返済年数は短いほうが良いのですが、返済期間を短く設定しすぎると毎月の返済額が増えてしまい、30代・40代を楽しく過ごすためのお金がなくなってしまいます。

そのため筆者は、決して無理をせず、楽しく生活できるお金を確保することを優先して、できる限り返済期間を長く設定することが賢い返済方法だと考えています。

本当に賢い住宅ローン返済方法とは?

結論として、住宅ローンは借りられるだけ借りたほうがよい、また、返済期間は長ければ長いほどよいと思っています。

ただし、この考え方は「住宅ローンの金利が、お金を運用したときの利回りより十分に低い」ことが大前提です。2026年は日本でも金利が上がってきており、前提が少しずつ変わりつつあります(この点は記事の後半「金利のある世界で考え方はどう変わる?」で詳しくお話しします)。まずは基本の考え方から順々に見ていきましょう。

住宅ローンの返済期間を短くするということは、毎月の返済額を増やすということです。

例えば、住宅ローンを35年で組めば月々の返済額は約6万円で済むのに、20年で組めば月々9万円台の返済になります。

ということは、若くてやりたいこともたくさんある時期に、月々3万円以上多く住宅ローンにお金を回すことになります。もちろんそれが継続できれば老後の心配は少なくなります。住宅ローンを早く返済するのは、裏を返すと老後のために若い時期に節約していることになるわけです。

先ほどの例で返済年数を20年にした場合、毎月34,000円ほど多く住宅ローンに支払うことになります。詳しく見てみましょう。

試算した住宅ローンの条件は以下のとおりです。
※以下の試算は、金利が今より低かった時期の条件(20年返済1.270%・35年返済1.340%)による計算例です。2026年8月時点の金利水準は後述しますが、「考え方」を確認するための例としてご覧ください。

  • 住宅ローン借入額:2,000万円
  • 返済方法:元利均等返済
  • 金利
    • 20年返済の場合:1.270%
    • 35年返済の場合:1.340%
 20年返済35年返済
毎月返済額94,408円59,681円
毎月返済額の差額 +34,727円
総返済額22,657,806円25,066,009円
総返済額の差額 +2,408,203円

住宅ローンを早く完済する目的は何か?

では、住宅ローンを早く終わらせる目的は何なのかと考えてみると、それは将来お金で困らないようにするため、金銭的な安心を得るためです。

住宅ローンの返済を早く終わらせて、手元に残るお金を多くしておきましょうと言われるわけで、この考え方は決して間違いではありません。

住宅ローンを早く返す、繰上返済をするのは将来手元に残るお金を多くする手段の一つ

では、将来手元に残るお金を多くするためには、住宅ローンを早く返してしまうこと、返済年数を短くすることが一番よい手段なのかと考えると、必ずしもそうではありません。

賢い人は住宅ローンの金利よりも高い金利でお金が増えるところにお金を回す

住宅ローンの返済にお金を回すということは、住宅ローンと同じ金利でお金を運用するようなものです。

厳密に計算すると違いはありますが、同じような効果を得ることができると言えます。

では、住宅ローンの金利よりも高い利回りでお金を運用できるところにお金を預けたらどうなるのかというと、返済年数を短くしたり繰上返済をしたりするよりも、将来手元に残るお金がはるかに多くなる可能性があるのです。

上記の例では、住宅ローンの返済年数を15年短くすることで、住宅ローンに支払うお金を約240万円減らすことができました。

例えば、毎月の返済額の差額(約3.5万円)を利回り(金利)3%で運用できる預け先へ35年間回した場合にどうなるか、計算してみました。

計算の条件は以下のとおりです。

  • 住宅ローン借入額:2,000万円
  • 返済方法:元利均等返済
  • 金利
    • 20年返済の場合:1.270%
    • 35年返済の場合:1.340%
  • 返済年数35年の方は、返済年数20年との毎月の返済額の差額を毎月積立投資に回す
 20年返済35年返済
毎月返済額94,408円59,681円
毎月返済額の差額 +34,727円
総返済額約2,200万円約2,500万円
総返済額の差額 +約240万円
35年間の運用益(3%) +約1,100万円
20年後以降の投資金額 -約625万円
手元に残るお金の差 +約175万円

20年返済は短期間で住宅ローンを返済することで約240万円の節約になりましたが、35年返済のほうは積立運用によって約1,100万円の運用益を得ます。

ただ、20年目から35年目までの間に投資へ回すお金が約625万円必要なので、それを差し引いた約175万円が、「住宅ローンを35年に設定して毎月の返済額を減らし、その差額を積立運用に回す」ことで得られる差額の利益ということになります。

ちなみに積立投信の実際のイメージはこのようなものになります。

もっとも、これはあくまでも理論値なので、毎年確実に3%の運用益を上げられるとは限りません。増える可能性もあれば減る可能性もあるのが資産運用の鉄則です。ただし、「住宅ローンの繰上返済をする」という行為は手元からお金を無くすことを意味します。家計の流動性を下げるというデメリットがあるのです。その一方で、投資信託のような商品は解約すれば1週間程度でお金が手元に戻ってきます。

突然まとまったお金が必要になったときに「使えるお金」としてカウントし続けることができるわけです。

「住宅ローンは繰上返済すると良い」という言葉を鵜呑みにせず、お金を有効活用することも選択肢に加えておくことが、実は非常に重要なのです。

団信という生命保険の価値にも注目を

団信(団体信用生命保険)は、住宅ローンを貸し出す金融機関が保険料を負担している生命保険です。住宅ローンを借りるためには原則として団信への加入が必須であるため、住宅ローンを借りる=団信にも加入している、ということになります。

団信は死亡や高度障害を保障するものです。

ネット生命保険大手のライフネット生命で死亡保険の月々の保険料がどの程度なのかを確認しつつ、団信の保険料でどの程度の価値があるのかを見てみましょう。

40歳男性で死亡保険2,000万円とすると、毎月3,600円ほどの保険料が必要でした(2024年5月時点の試算例。保険料は年齢・時期で変わるため、最新は各社公式サイトでご確認ください)。年間で4万円を超える金額です。

住宅ローン残高が2,000万円であれば、この保険料が無料になるのと同じ効果となります。

万が一への備えを、住宅ローンを借りていることで実現している側面もあることがよくわかりますね。

住宅ローンの繰上返済をするほど、この「無料の備え」が減っていくという事実もしっかり把握したいところです。

【2026年8月時点】「金利のある世界」で考え方はどう変わる?

この記事の考え方は超低金利が前提でした。ここからはFPとして、金利が上がってきた2026年にこの戦略をどう考えるかを補足します。

日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利を1.0%程度へ引き上げました(1995年以来、約31年ぶりの高水準。7月31日の会合では据え置かれています)。これを受けて、三菱UFJ銀行・みずほ銀行などの大手行は2026年8月3日に短期プライムレートを年2.125%から年2.375%へ引き上げました。多くの銀行は変動金利の見直しを年2回(4月・10月)行うため、変動で借りている方の適用金利には2026年10月頃から反映されていく見込みです。また、全期間固定のフラット35(返済期間21年以上35年以下・融資率9割以下・団信付き)の最多金利は2026年8月で年3.290%と、現行制度となった2017年10月以降で最も高い水準になりました。一方、8月の変動型(新規の最優遇金利)は主要行でおおむね据え置かれており、「固定は長期金利、変動は政策金利(短期プライムレート)に連動して動く」という構図がはっきり出ています。繰上返済や借り方を考えるときも、ご自身のローンがどちらのタイプかで金利の動き方が違う点を押さえておきましょう。

ローン金利が1%を超えてくると、「繰上返済せずに運用へ回す」ことで得られる差は以前より縮まります。判断の軸は次の4つです。

  • ローン金利と期待利回りの差:ご自身の適用金利が上がるほど、繰上返済の「確実な利息軽減」の価値が増します。
  • 住宅ローン控除の残り期間:控除が効いている間は、繰上返済で残高を減らすと控除額も減る点に注意(制度の内容は入居時期で異なります。最新は国税庁のサイトでご確認ください)。
  • 手元の流動性:生活費の6か月〜1年分は残すのが目安。地方では車の買い替えなど、まとまった出費も見込んでおきたいところです。
  • 団信の保障価値:残高が大きいうちは「無料の生命保険」の価値も大きい、という本文の視点です。

なお、繰上返済のしやすさは銀行選びの観点にもなります。例えばSBI新生銀行の住宅ローンは、一部繰上返済がインターネットから1円単位・手数料0円で何度でも可能で、保証料も0円です(事務手数料は借入金額×2.20%(税込)の定率型)。「長く借りておいて、余裕ができたら小刻みに返す」という柔軟な使い方がしやすい設計で、店舗相談とオンライン手続きの両方に対応している点も、地方にお住まいの方には心強い選択肢の一つです。金利や条件は改定されるため、最新は公式サイトでご確認ください。

よくいただくご相談(FAQ)

変動金利で借りています。金利が上がり始めたら、急いで繰上返済すべきですか?

慌てて手元資金を減らす必要はありません。多くの銀行の変動金利(元利均等返済)には、返済額を5年間据え置く「5年ルール」、見直し時も直前の1.25倍までとする「125%ルール」があり、毎月の返済額が急に跳ね上がるわけではないためです(ルールの有無は銀行・商品によって異なるので、ご自身の契約を確認しましょう)。そのうえで、金利と手元資金・控除の残り期間を見ながら、部分的な繰上返済を検討するのが現実的です。

貯金はどのくらい残して繰上返済すればいいですか?

目安は生活費の6か月〜1年分に加えて、数年以内に見込まれる大きな出費(車の買い替え・子どもの進学費用・住宅の修繕など)です。地方は車社会なので、車関連の出費は都市部より多めに見積もっておくと安心です。ここを削ってまで繰上返済をすると、いざというとき金利の高いローンを借りる羽目になり、本末転倒になりかねません。

団信に入っていれば、生命保険は見直してもいいのでしょうか?

団信でカバーされるのは「住宅ローン残高」だけです。万が一のとき住まいは残りますが、遺されたご家族の生活費や教育費は別に必要です。住宅ローンを組んだタイミングは、死亡保障の必要額を計算し直して生命保険を見直す良い機会ですので、家計全体で考えることをおすすめします。

まとめ:「繰上返済しろ!早く返せ!」は間違いではない。ただ、どちらにしても住宅ローンはお得なもの・柔軟なものを選ぶべき

住宅ローンの返済は早く終わりましたが手元にあまりお金が残っていません、という状態と、住宅ローンは残っていますが手元にはたくさんのお金が残っています、という状態では、いったいどちらのほうが安心できるでしょうか。

返済年数を短くしたり繰上返済をして早く返したりする本来の目的・理由は何だったのかを考えれば、後者のほうが安心できる状態だと言えると思います。

ただし、資産運用で年3%の利回りを確保できる保証はどこにもありません(無謀な数値でもありません)。そして2026年は住宅ローン金利そのものが上がってきており、「借りて運用」の差益は以前より縮まっています。ご自身の適用金利・控除・手元資金のバランスで判断することが、これまで以上に大切になっています。

また、住宅ローンを完済することで、保険料を銀行が負担してくれている生命保険=団信の保障が無くなってしまうという視点も忘れてはいけません。

さらに「1円の価値」は時代により変わります。統計の取り方はいろいろありますが、今から30年ほど前の1円は今の1.25倍ぐらいの価値があったと言われています。物価が上がる時代には、お金を「単純に貯金しておく」だけでは実質的な価値が目減りしていくため、それぐらいであれば繰上返済してしまった方が良い、という考え方も成り立ちます。

低い金利で借りたお金を無理に早く返すよりも、より高い利回りで運用できるところにお金を回したほうが、将来手元に残るお金は多くなる可能性がある。──この考え方自体は今も有効ですが、金利のある世界では「差」が縮んでいることを踏まえて、ご自身の条件で冷静に計算することをおすすめします。迷ったときは、お近くのFPに家計全体を見てもらいながら相談してみてくださいね。