「家賃と変わらない金額で家が買える」という広告は、住宅ローンの毎月の返済額だけを家賃と並べたもので、購入時の諸費用や持ち家ならではの維持費、金利上昇のリスクまでは含んでいないのがほとんどです。
「家賃並みの支払で家が買える!」「今の家賃より安い金額でマイホームが持てる」。徳島のような地方の住宅チラシでも本当によく目にする言葉で、FPへのご相談でも定番のテーマです。
たしかに、「毎月の住宅ローンの支払額」と「毎月の家賃の支払い額」を比べて、大差ない状態を作ることはできるので全てを嘘とは言いませんが、ほとんどの場合、その宣伝文句には落とし穴があります。どこに落とし穴があるのか、チラシのどこを見ればよいのかを順にお話しします。
月々は家賃並みでも、購入時に数百万円単位の費用がかかる
まず、住宅ローンを借りて、マイホームを購入することになった時点で、「数百万円単位」のお金がかかることをちゃんと説明していないケースが多い、という点に注意が必要です。
具体的には、不動産会社に支払う仲介手数料や、住宅ローンを契約する銀行に支払うローン事務手数料、保証会社に支払う保証料などです。
たとえば仲介手数料は、宅地建物取引業法にもとづく国土交通省の告示で上限が決まっており、物件価格が400万円を超える場合は「物件価格×3%+6万円+消費税」が上限です。仮に2,000万円の物件なら、仲介手数料だけで最大72万6,000円(税込)になる計算です。これに登記費用・印紙税・火災保険料などが加わっていきます。
なお、2024年7月からは、800万円以下の「低廉な空家等」の売買について、仲介手数料の上限を30万円の1.1倍(税込33万円)とする特例が設けられています。この特例は、媒介契約の前に報酬額の説明を受け、合意した場合に適用されるものです(国土交通省 報酬規定の見直し)。地方で中古の戸建てを検討する方は、物件価格が安くても手数料の説明をしっかり確認しておきましょう。
毎月の住宅ローンの返済額と家賃だけを比べれば、確かに大差がないのですが、まとまったお金がかかる可能性が高いということは覚えておきましょう。
「家賃と同じ金額」とか「月々これだけで!」みたいなチラシを見かけたら、小さい文字で「初期費用」や「支払い条件」が記載されていると思いますのでしっかりと確認してください。
そのチラシには不動産仲介手数料は書いてありますか?住宅ローンの事務手数料の想定金額は書いてありますか?マイホームを購入したら毎年かかる固定資産税や、登記費用などのお金も考慮されていますか?
「家賃並み」を演出する3つの典型的なカラクリ
ご相談の場でチラシを一緒に確認すると、「月々の支払いを安く見せる仕組み」はだいたい次の3つのどれか(または組み合わせ)に当てはまります。
カラクリ1:ボーナス払いを併用して月々を小さく見せる
返済の一部をボーナス払いに回せば、毎月の返済額はその分だけ小さく表示できます。しかし年間の総支払額は変わりませんし、ボーナスは景気や勤務先の業績で減る可能性のある収入です。チラシの返済例に「ボーナス月○万円」という記載が小さく入っていないか、必ず確認しましょう。
カラクリ2:返済期間をできるだけ長く設定している
同じ借入額でも、返済期間を35年など長期にすれば毎月の返済額は下がります。その代わり利息を支払う期間が長くなるので、総返済額は増えます。また、完済時の年齢が定年後にずれ込む計画になっていないかも、家計を預かるFPとしては必ず確認したいポイントです。
カラクリ3:いちばん低い変動金利で試算している
返済例の多くは、その時点で最も低い水準の変動金利で試算されています。変動金利は将来上がる可能性があり、上がれば毎月の返済額も増えます。
実際、日本銀行は2026年9月18日の会合で政策金利を1.25%程度へ引き上げ(9月24日から適用・1995年以来の高い水準)、三菱UFJ銀行は変動金利の基準となる短期プライムレートを11月2日から年2.375%→年2.625%へ引き上げると発表しました(日本銀行 長・短期プライムレートの推移)。
9月28日には八十二長野銀行や群馬銀行なども、短期プライムレートを11月2日から引き上げると発表しており、地方銀行でも同じ動きが続いています。
短プラの引き上げが住宅ローンの変動金利にいつ・どれだけ反映されるかは商品ごとに異なりますが、「今の金利のままの試算」だけを見て資金計画を立てるのは危険です。金利が1%上がった場合の返済額も、あわせて試算してもらいましょう。変動金利の仕組みは変動金利型住宅ローンの5年ルール・125%ルールの解説で詳しくまとめています。
賃貸と持ち家で「見えない費用」を比べてみる
毎月の支払額の比較だけでは見えてこない費用を、観点ごとに整理しました。チラシを見るときのチェックリストとして使ってください。
| 比較の観点 | 賃貸の場合 | 持ち家(購入)の場合 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 敷金・礼金・仲介手数料など(比較的少額) | 頭金・仲介手数料・ローン事務手数料・保証料・登記費用・印紙税など(数百万円単位になることも) |
| 毎年かかる税金 | 原則なし | 固定資産税・都市計画税(毎年) |
| 修繕・メンテナンス | 原則オーナー負担 | 自己負担(戸建ては屋根・外壁等の積立が必要、マンションは管理費・修繕積立金) |
| 保険 | 家財中心の火災保険 | 建物の火災保険・地震保険(ローン借入時はほぼ必須) |
| 住み替えの自由度 | 収入や家族構成に合わせて引っ越ししやすい | 簡単には住み替えできない(売却には時間と費用がかかる) |
| 金利変動の影響 | 受けない | 変動金利の場合、金利上昇で返済額が増える可能性 |
マイホーム購入は人生の一大イベント
ここからはあくまでも筆者の個人的な意見です。
個人的には、「家賃並みの支払で家が買える」という言葉だけで購入を急がせるような売り方をする会社からは、マイホームを買うべきではないと考えています。
人生はお金だけではありませんが、人生において「お金」は非常に大切なものです。しかも、マイホームの購入は人生を左右する一大イベントです。私たちは不動産会社や工務店にとっては、たくさんいる客の1人でしかなく、それほど特別なことではないかもしれませんが、私たちにとって、マイホームの購入は特別なイベントです。
そんな一大イベントを、将来後悔するかもしれないような宣伝文句で、まるでマイホームを持ちたいという気持ちを悪い意味で利用するようなやり方でマイホーム購入をすすめるような会社は、正直、信頼できる会社ではないと思います。
お金や住宅ローンの説明をあいまいにしたまま、月々の金額だけで購入を勧める会社からマイホームを買いたいと思うでしょうか。
そうした会社が、誠心誠意あなたにとってよいマイホームを建ててくれると思いますか?
もしそう聞かれたら、私は迷わずNOと答えます。もちろん、初期費用や維持費、金利上昇時の返済額まで丁寧に説明してくれる会社も多くあります。説明の丁寧さそのものが、会社選びの判断材料になります。
おさらい
これまでお伝えしてきたように「毎月の家賃と同じ金額を支払うだけでマイホームが持てる」という勧誘には、たくさんの注意点があります。最後に確認点をまとめましたので、参考にしてください。くれぐれも慎重に判断するようにしましょう。
- 総支払額の確認
毎月の支払い額だけでなく、住宅ローンの総支払額をしっかりと確認しましょう。利息や手数料、保険料なども含めた総額を知ることで、実際の負担を理解できます。また、賃貸住宅の場合、建物の修繕はオーナーが行いますが、マイホームを購入したらあなたがオーナーとして管理・修繕していく必要が出てくる点も忘れないようにしましょう。
- 利率と返済期間
住宅ローンの利率や返済期間を確認しましょう。金利が低い場合でも、変動金利タイプの場合は将来の金利上昇に伴うリスクがあります。とくに政策金利の引き上げが続く局面では、試算に使われている金利が「いつ時点の・どの金利タイプか」の確認が大切です。また、返済期間が長いと利息総額が大きくなることもあります。賃貸住宅は将来の収入状況に合わせて、気軽に住む場所を変えることができますが、マイホーム購入の場合は簡単に引っ越しできなくなりますので、その点は理解しておく必要があります。
- 初期費用の確認
前述した通り、マイホーム購入時には、頭金や仲介手数料、登記費用などの初期費用が必要です。これらの費用がどの程度かかるかを事前に把握しておくことが大切です。
- 固定費用の確認
マイホームを持つと、毎年固定資産税の支払いが必要になります。マンションの場合、管理費、修繕積立金など、毎月の支払い以外の費用も発生します。戸建て住宅の場合は、屋根や壁の修繕費用を積み立てておく必要もあるでしょう。これらの費用は無視できるものではありませんので、事前に把握しておくようにしましょう。
- 物件の状態と価値
そのマイホームの5年後10年後の価値はどうなっているでしょうか?マイホームの将来の価値についてもできる限り検討しておくことが大切です。築年数や立地条件、周辺環境などによりますので、マイホーム近辺の他の住宅の売買状況や開発計画を確認しておくことも重要なポイントです。
将来的な修繕費や価値の下落リスクも考慮する必要があります。
- 信頼できる業者か確認
なんといっても、その業者が信頼できる業者なのか、信頼できる担当者なのかは非常に大切なポイントです。インターネットやSNSなどで評判や口コミを調べることも有効です。
過去の取引事例や顧客の声を参考にし、不安があれば他の業者とも比較してみましょう。
「家賃並み」広告でよくあるご質問
Q. 「頭金0円・諸費用もローンに組み込みOK」なら、まとまったお金は本当に不要ですか?
A. 諸費用まで借りられる商品は実際にありますが、その分だけ借入額が増え、利息も増えます。諸費用部分の金利が住宅ローン本体より高く設定されることもあります。「手元のお金を使わずに済む」ことと「負担が軽い」ことは別物です。引っ越し代や家具・カーテンなど、ローンに組み込めない出費も意外とかかります。
Q. チラシの「月々○万円」に固定資産税や修繕費は含まれていますか?
A. 含まれていないのが普通です。チラシの金額はあくまで「住宅ローンの毎月返済額」だけを指していることがほとんどで、固定資産税・火災保険料・修繕の積立などは別にかかります。家賃と比較するなら、これらを足した「住居費の総額」で比べるのが正しい比較です。
Q. 広告の返済例は、具体的にどこをチェックすればいいですか?
A. 最低限、次の5点を小さな注記まで含めて確認してください。①試算に使っている金利(何%で、変動か固定か)②返済期間(何年か)③ボーナス払いの有無と金額④頭金の前提(頭金ありの試算になっていないか)⑤初期費用・諸費用が含まれているか。この5点を確認するだけで、「家賃並み」の広告のカラクリはほぼ見抜けます。
判断に迷うときは、売り手と利害関係のないFPなど第三者に試算を見てもらうのも一つの方法です。
Q. 頭金はどのくらい用意しておけば安心ですか?
A. 金額の正解はなく、諸費用を現金で払えるか、購入後も生活費の数か月分の貯蓄が残るかで考えるのが現実的です。頭金を入れすぎて手元資金がなくなると、急な出費で家計が苦しくなります。考え方は頭金はいくら必要かを金利上昇局面で考える記事で詳しく解説しています。
マイホーム購入を否定するわけではありませんが、これらのポイントを踏まえて、冷静に判断して物事を進めるようにしましょう! すでに購入して返済が重いと感じている方は、住宅ローン返済がキツいと感じたときにできることも参考にしてください。
※金利は2026年9月時点の情報です。金利や制度は変更されることがあるため、最新情報は日本銀行・国土交通省や各金融機関の公式サイトでご確認ください。